胃切除術後症候群

●ダンピング症候群
胃の切除により胃液分泌量の低下と貯留機能の破綻が起こり、浸透圧の高い食べ物が腸内に急速に排出されてしまうことで生じる。食後30分前後で起こる早期ダンピング症候群と食後2~3時間で起こる後期ダンピング症候群に分類される。
・早期ダンピング症候群
食後30分以内に発汗、頻脈、熱感、顔面紅潮などの全身症状と、腹鳴、腹部膨満、腹痛、下痢などの腹部症状が出現、45分位持続するものと定義されている。これは高濃度の消化物が急激に腸管へ排泄されることにより、血管から腸管内へと水分の移動が起こり、セロトニンやヒスタミンなどを放出して血管運動神経症状を示すためである。
・後期ダンピング症候群
食後2~3時間頃に冷汗、頻脈、めまい、全身倦怠感等の低血糖症状をきたし、糖分摂取により症状が消失するものである。これは食後の急激な糖吸収による高血糖状態がインシュリンの分泌過剰をきたし、そのために低い血糖状態になるため惹き起こされると考えられる。
・治療
1回の食事量を減らし、ゆっくり食事を摂る。
食事の回数を増やす。
●輸入脚症候群
胃切除術後にビルロートⅡ法で再建したとき、盲端となる十二指腸の部分である輸入脚に溜まった胆汁と膵液が逆流し、嘔吐を引き起こす。
・治療
1回の食事量を減らし、ゆっくり食事を摂る。
食事の回数を増やす。
●貧血
胃酸の分泌が減少し、鉄の吸収に必要なイオン化が阻害され、鉄欠乏性貧血が生じる。
胃体の壁細胞から分泌される内因子が減少し、ビタミンB12の吸収が阻害され、巨赤芽球性貧血を引き起こす。ビタミンB12は肝臓に4年分の貯蔵があるため術後4年経てから出現する。
・治療
鉄剤投与
ビタミンB12の筋注あるいは大量経口投与(1000~2000μg/日)
●逆流性食道炎
噴門の括約筋機能が低下することで胃液が食道に逆流し、炎症を引き起こし、胸やけを訴える。胃を全摘した場合は胆汁と膵液の逆流が問題となる。
・治療
制酸剤
蛋白分解酵素阻害剤
●骨代謝障害
胃酸の減少や小腸の細菌叢の変化によってカルシウムが吸収されにくくなる。脂肪の吸収障害によりビタミン D が低下して骨基質へのカルシウムの沈着が障害される。そのため骨塩量の低下をきたし骨粗鬆症や骨軟化症が出現する。
●消化、吸収不良
胃酸および消化酵素の分泌減少、手術による迷走神経の切除が原因で消化管運動が低下し、消化管ホルモンの分泌が変化する。消化が不十分のまま食物が小腸に流れ込むと下痢を起こす。
●胆石症
胃切除術を行う時に迷走神経を切除してしまうことで胆嚢の運動が低下し、術後に胆石を生じることがある。胃切除を受けた人の20%ぐらいに胆石がみられ、平均術後1~2年で発症する人もいる。予防的に胆嚢を摘出することがある。
●残胃胃炎・残胃癌
残胃に炎症が生じるもので、胆汁や膵液を含む十二指腸液の胃への逆流が原因とされる。萎縮性胃炎や腸上皮化生に変化することが多く、すでに手術後2~3週間で始まり、徐々に慢性化する。十二指腸液の胃内逆流の多いビルロートⅡ法で強く見られる。正常の胃よりも残胃の方が胃癌の発生率が高いとする報告がある。
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