先天性心疾患

●先天性心疾患
約1%の割合で発症
同胞の発症は5~10%
遺伝要因(21 trisomy, catch22など)+環境要因(喫煙、飲酒、貧血など)
●ASD(心房中隔欠損症)
・概念
0.1%, 1/1000
成人の先天性心疾患の中で1番多い。
乳児期無症状→学童期~成人で発症。
左右シャント→右心負荷→肺高血圧→右左シャント→Eisenmenger症候群
・症状
乳児期:無症状(心雑音・ECG異常で発見)
学童期:易疲労感、動悸、身体発育障害
成人期(40~60歳で発症):心不全、不整脈、肺高血圧、MR
・聴診
Ⅱ音固定性分裂(肺血流増加→Ⅱ音肺動脈成分遅れ)
Ⅱ音亢進(肺血流増加→Ⅱ音肺動脈成分亢進)
2LSBでの収縮期雑音(右心負荷→PS)
4LSBでの拡張期雑音(右心負荷→TS)
右左シャントになると、PS及びTSによる心雑音は聴取せずにPRによる拡張期逆流性雑音を聴取する。また、Ⅱ音固定性分裂も聴取されなくなりⅡ音亢進する。
・XP
右第2弓(右心房)、左第2弓(肺動脈)、左第4弓(右心室)の突出
RA,RV負荷による心拡大(CTR>55%)
肺血流増加による肺血管陰影の増強
・ECG
不完全右脚ブロック(rSR’, RSR'(V1))
右軸偏位
孤立性陰性T波(V4)
V6で深いS
・エコー
心房中隔欠損孔
カラードップラーにて左右短絡血流
心室中隔の奇異性運動(右室容量負荷のために収縮期に中隔が左室後壁から遠ざかる、通常は近づく)
右房・右室の拡大
PSの評価(PG、P弁の性状)
MR、MVP(ASDの40%にMVP合併)
TRの評価
RVの推定
L→Rシャント量推定
PAPVRの有無(ASDの10%に合併)
・カテ
欠損孔よりカテーテルが短絡する。
右房で酸素濃度のstep upが見られる。
Qp/Qs>1.5~2.0の場合手術適応。(正常はQp/Qs=1)
Eisenmenger症候群となった場合には手術は禁忌。
・治療・予後
自然閉鎖まれで手術必要
30歳以降の手術は予後不良であり、それ以前に手術を施行する
IEになりにくい
●VSD(心室中隔欠損症)
・概念
先天性心疾患の中で最も多い。(先天性心疾患の30%を占める)
左右シャント→肺動脈→左心負荷
自然閉鎖することが多い。
肺血流増加→右心負荷→右左シャント→Eisenmenger症候群
感染性内膜炎のリスクあり。
・聴診
4LSBの全収縮期雑音(重症化すると弱くなる)
Ⅱ音の異常分裂、Ⅱ音亢進(肺血流増加による)
肺高血圧になるとPRによる拡張期逆流性雑音を聴取する。
・XP
肺血流量が増加するので左第2弓(肺動脈)が突出する。
左心系が拡大するので左第3弓(左心房)、左4弓(左心室)の突出が見られる。
・ECG
軽症では正常。
短絡量が増大している場合には 左室肥大が見られる。
肺高血圧になれば右室肥大も見られる。
・心エコー
カラードップラーでは左室→右室へシャントする血流が見られる。
・心カテ
欠損孔よりカテーテルが短絡する。
右室で酸素濃度のstep upが見られる。(7.5%以上)
Qp/Qs>1.5~2.0の場合には手術適応。
●TOF(ファロー四徴症)
・概念
心室中隔欠損、肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)、大動脈騎乗、右心室肥大の四徴症
PS→RVH→XP:左第2弓陥凹、左第4弓突出、ECG:右軸偏位、右室肥大
心室中隔欠損が大きく単心室の状態。
・症状
出生直後右室流出路狭窄がひどくないため無症状だが、生後数ヶ月で成長と共に右室流出路狭窄がひどくなり、チアノーゼを呈する。(2,3M~)
チアノーゼ出現時期:1/3 ~1M、 1/3 1M~1Y、 1/3 1Y~
泣いたときなどに肺血管抵抗の急激な上昇により肺血流が低下し低酸素発作を起こす。(6M~)
無酸素発作:運動・情動→右室流出路狭窄の増強→肺血流量減少→チアノーゼ、SpO2↓、pH↓、心雑音↓
3~6%に肺動脈弁欠損を合併し、clover typeであれば問題ないが、ballon typeでは予後不良である。
・聴診
収縮期駆出性雑音(2LSB)(狭窄強いとAoへ流れるため心雑音減弱する)
VSDによる雑音は聴取しない(欠損孔大きく左右室等圧のため)
・XP
木靴心
左第2弓陥凹(肺血流低下)
左第4弓突出(左心室)
・ECG
右室拡大、右軸偏位
・心エコー
VSD、PS、Ao overriding、RV肥大
・心カテ
右室圧上昇(≒左室圧)
右室流出路狭窄の圧較差
右室造影でPA, Ao両方造影
AoのSpO2低下
・治療
乳児期:チアノーゼひどければBTシャント術
1歳頃(BW7,8kg):根治術(VSDパッチ閉鎖術+右室流出路形成術)
(BW7,8kgになれば開心術に耐えられる、1年以上経つとBTシャントが相対的に小さくなる、右室機能の維持には1歳以上過ぎないほうがいい)
無酸素発作予防:β-blocker(インデラル)、α-stimilator(ネオシネジン)、蹲踞(腹部大動脈・大腿動脈圧迫→肺血流抵抗上昇→VSDを通じての右左シャント減少)
無酸素発作:
胸膝位(体血管抵抗を上げる)
酸素投与(酸素運搬能を上げる)
水分負荷(循環血液量を増やす)
鎮静(交感神経の興奮を抑える)
フェノバール 5~10mg/kg 筋注、分2内服
セルシン 0.3~0.5mg/kg 静注
ドルミカム 0.15~0.3mg/kg 静注
β遮断薬(陰性変力作用により右室流出路狭窄を改善)
インデラル 0.01~0.1mg/kg ゆっくり静注
インデラル 1~4mg/kg 分3~4
ミケラン 0.~0.3mg/kg 分2
α遮断薬(体血管抵抗を上げる)
ネオシネジン 0.005~0.1mg/kg 静注
0.01~0.03μg/kg/min 持続静注
輸血(酸素運搬能、循環血液量を上げる)
代謝性アシドーシス
メイロン 1ml/kg 静注
・合併奇形
左肺動脈狭窄40%、肺動脈弁2尖弁40%、右大動脈弓25%、冠動脈異常25%
・自然予後(手術なしの生存率)
1歳で75%、3歳で60%、10歳で30%、20歳で11%、30歳で6%
死因:肺炎、無酸素発作、脳膿瘍、感染性心内膜炎、脳梗塞
・手術後の生存率
術後20年で98%
肺動脈弁閉鎖不全、大動脈弁閉鎖不全、肺動脈狭窄残存、心室中隔欠損残存→不整脈、心不全、感染性心内膜炎
●PA index
PAの太さを評価する。手術適応を決める基準となる。
PA index=左右PA主幹部の断面積の和/BSA
(正常値300~400)
PA index高い=PAの発育がいい=術後の右室後負荷、左心系発育
TOF>100, Rastelli>200, Fontan>250でOPE適応
●ECD(AVSD)(心内膜欠損症)
・概念
21 trisomy合併多い
LRシャント→右心系負荷→肺高血圧→Eisenmenger化
・症状
労作時呼吸困難、心不全
・聴診
Ⅱ音固定性分裂、PS(収縮期雑音)、TS(拡張期雑音)←右心負荷
収縮期逆流性雑音←MR
全収縮期雑音←VSD
・XP
左第2弓突出(肺血流量増加)
右第2弓(右心房)、左第4弓(右心室)突出
・ECG
左軸偏位
・心エコー
欠損孔、左右シャント、心室中隔奇異性運動
●PAVSD(肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損症、極型Fallot四徴症)
・内科的治療
動脈管開存維持(PGE1-αCD持続投与、酸素投与禁忌)
水分制限なし
・外科的治療
生後2,3週間後にBT shunt術予定
1歳頃(BW 7-8kg)を目安に根治術予定(VSDパッチ閉鎖術+右室流出路形成術)
※shunt手術後NEC(壊死性腸炎)になることがある。(1.6%)
ビフィズス菌投与、絶飲食2週間治療する。
●PDA(動脈管開存症)
・概念
大動脈と肺動脈を結ぶ動脈管が生後に酸素分圧の上昇に反応して閉鎖せずに開存したままとなっている。未熟児やARDSの治療を行なっている児では低酸素血症となりやすく開存したままになりやすい。
・症状
肺うっ血→呼吸困難→心不全
分離チアノーゼ(下半身チアノーゼ)
感染性心内膜炎
・聴診
連続性雑音
肺高血圧→Ⅱ音亢進
肺高血圧→肺動脈弁閉鎖不全症→拡張期逆流性雑音(Graham Steell雑音)
拡張期血圧低下、速脈
・XP
肺血流量増加→左第2弓突出
左心系拡大する→左第3弓(左房)、左第4弓(左室)の突出
・ECG
左室肥大
・心エコー
動脈管描出
・心カテ
肺動脈で酸素濃度のstep up
・治療
プロスタグランジン合成阻害薬(インドメタシン)
●TGA(完全大血管転位症)
RVからAo、LVからPAが出ている。
ASD,VSD,PDAが併存。
Ⅰ型:ASD, PDA
Ⅱ型:VSD
Ⅲ型:VSD, PS
・症状
チアノーゼ、心不全
・XP
卵型心陰影(右室から大動脈出ると大動脈弓が寝るため目立たなくなる)
肺血管陰影増強
・ECG
右軸偏位、右室肥大
・心エコー
LVから出ている血管が2本=PA
RVから出ている血管がアーチを作る=Ao
・治療
Ⅰ型:PDE、BAS→Jatene手術
Ⅱ型:Jatene手術、PAbanding
Ⅲ型:Blalock-Taussig手術
左室圧が低下する前(左室圧5.5mm以下だと左室機能低いと判断)、すなわち生後7~10日にOPEする。
冠動脈形態、流出路狭窄がないことを確認。
VSDがあると左室圧は保たれることが多い。
Ⅰ型で2週間、Ⅱ型で3ヶ月以内にOPEするのがよい。
●動脈管依存性疾患
※PGE1持続投与、酸素禁忌
①絶対的血流依存
1)肺血流依存
肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損症(PAVSD)
重症肺動脈弁狭窄(severe PS)
三尖弁閉鎖(肺血流減少型)(TA)
純型肺動脈閉鎖(PPA)
2)体血流依存
大動脈縮窄(管前型)(CoA)
大動脈弓離断(IAA)
左心低形成症候群(HLHS)
②相対的血流依存
完全大血管転位(TGA)
●PGE1製剤
・PGE1製剤の種類
Lipo-PGE1(パルクスR 他):実用投与量3~5ng/kg/min
リポ化製剤、効果発現・消失遅い、大量投与で高脂血症
PGE1-αCD(プロスタンディンR):実用投与量5~10ng/kg/min
水溶性製剤、効果発現・消失速い、大量投与可能
・PGE1製剤の副作用
無呼吸、発熱、浮腫、血圧低下、下痢、痙攣、出血傾向、低Na血症、低Ca血症、低K血症
●TAPVC(総肺静脈還流異常症)
・概念
先天性心疾患の1%を占める。男:女=2:1
4本ある肺静脈のすべてが右心房に戻ってしまう疾患。
右心房→右心室→肺→右心房となっているため、左心系への短絡がなければ生存できず、卵円孔開存か心房中隔欠損があり心房レベルで左心系と右心系の血液が混ざる場合生存が可能。
肺静脈の還流部によってⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型にわかれる。
PV→RA PVがLAに流れずRAに流入
typeⅠ:上心臓型(PV→SVC)
typeⅡ:心臓型(PV→RV)
typeⅢ:下心臓型(PV→IVC,門脈)
typeⅣ:混在
・症状
チアノーゼ
肺うっ血→呼吸困難
肺高血圧、右心不全
PVの還流路に狭窄(PVO)+酸素投与→肺うっ血
PVOあるときは酸素投与禁忌
・XP
typeⅠ:雪だるま陰影(snowman sign)
・ECG
右心系負荷→右軸偏位、右室肥大、不完全右脚ブロック
・心エコー
無名静脈、垂直静脈を認める。
・治療
バルーン心房中隔裂開術(BAS)、ASD作成術(緊急時)
心内修復術(根治術)
●部分肺静脈還流異常症
・概念
4本ある肺静脈のうち、1~3本が右心房に戻ってしまう疾患。血行動態は心房中隔欠損症(ASD)と類似しており、臨床症状も心房中隔欠損症(ASD)と同様。
・XP
右肺静脈から下大静脈へのルートをとる場合にscimitar症候群
・治療
ASDに準じており、手術適応はQp/Qs>1.5~2.0
●左室心筋緻密化障害
・概念
左室心尖部に多い。
2:1で男性に多い。家族性発症。
胎生期の疎な心内膜が遺存する。
心筋のスポンジ様変化、粗い肉柱、深い陥凹、菲薄化した心筋が特徴的。
拡張型心筋症様のびまん性運動障害と左室拡大が起こり、心不全や血栓症を起こす。
冠動脈異常、心筋虚血、不整脈、左室収縮障害などの合併が多い。
神経筋疾患の合併が多い。(29%)
・検査
収縮期における肉柱の高さ(N)と緻密筋層(C)とのN/C比>-2
カラードップラーで肉柱間に血流+
・治療
左室形成術
左室部分切除術
心移植
●Ebstein
三尖弁が右室壁に付着する。
右房化右室、TR、ASD
●総動脈幹症
・概念
PAニ尖弁、四尖弁のことも→PR
右Ao弓、Ao離断
・症状
呼吸障害、哺乳障害、体重増加不良、うっ血性心不全
・治療
低O2,N2療法
PA banding
●心雑音聴取しない
PPHN、HLHS、TAC、TGA、TAPVR、CoA、PA
●無脾症候群、多脾症候群
・概念
1万人に1人。遺伝子異常。
臓器左右対称性発育(水平肝、胃は正中付近、無脾、多脾)
複雑心奇形(単心房、単心室、総肺静脈還流異常、肺動脈閉鎖、上大静脈遺存、大血管転位、両大血管右室起始)
右側相同:右側形態、無脾
左側相同:左側形態、多脾
・症状
チアノーゼ(←無脾)
心不全(←多脾)
腸閉塞(←腸の走行異常)
重症感染症(←無脾)
・治療
フォンタン手術
●Down症候群(21 trisomy)
47、XX or XY, +21
1/1000
高齢出産に多く、35歳未満で1000分の1の確率が35歳以上で200分の1、45歳以上で20分の1と上昇する。ただし80%は非高齢出産児である。
発達遅滞、筋緊張低下、特異的顔貌(扁平な後頭、眼瞼裂斜上、内眼角贅皮、両眼離開、扁平な鼻根、耳介変形)、頸周囲の皮膚過剰、翼状頸、第五指内彎、先天性心疾患(AVSD、ASD、VSD)、先天性消化管奇形(鎖肛、十二指腸・食道閉鎖)、滲出性中耳炎、痙攣、低身長、肥満、難聴、白内障、猿線、甲状腺機能低下症、ALL、TAM
●22q11.2欠失症候群(DiGeorge症候群)(catch22)
del(22q11.2)
1/4000
Cardiac defects (心奇形)、Abnormal facies (顔貌異常)、Thymic hypoplasia (胸腺低形成)、Cleft palate (口蓋裂)、Hypocalcemia (低カルシウム血症)
心奇形(TOF, CoA, VSD)、特異的顔貌(内眼角離開、腫れぼったい眼瞼、扁平な鼻根、小さな口、耳介変形)、発達遅滞、胸腺低形成、低カルシウム血症、低身長、腎奇形、鎖肛、鼠径ヘルニア、尿道下裂、顔面神経麻痺
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